GATE stalemate配布小冊子 のプレビュー
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2009年11月22日に開催された、『うみねこのなく頃に』オンリーイベント「GATE:stalemate」で配布された小冊子の全文です。
改行・誤字・頁など原文なるべくそのままにしました。
今日、11月23日は勤労感謝の日。
日本では、勤労を尊ぶ休日になっているが、子供たちにとっては特に、家族のために働いてくれる親に感謝する日という感じになっている。
幼稚園や小学校で、両親に感謝するために、工作の時間に色々なものを作った記憶がおありの方々も多いはず…。
「うー! 真里亞ね、学校で勤労感謝の日のプレゼント作ったの! ほらー、これなのっ、うー!」
「おー、素敵な封筒じゃねぇか! “勤労感謝の日のプレゼント”、か。直球なのがいいなぁ!」
「綺麗に飾りつけが出来てるね。折り紙で作ったの? 貼り付けてあるお花がとても上手だね。」
「何て言うのか、真心が伝わるぜ。で、中身は何なんだい?」
「うー! えっとね、ほらっ。肩叩き定期券~! 一ヶ月有効なの。いつでもママがして欲しい時に、真里亞が肩をトントンしてあげるの!」
有効期限は一ヶ月。一日一回、30分。
ただし時間は、夜の9時まで。だから早く帰って来てねという、真里亞のメッセージも込められている。
封筒も定期券も非常に丁寧に、そして楽しそうに装飾されていて、なかなかの力作だった。
戦人、譲治、朱志香たちは、その真心に感動を覚えずにはいられなかった…。
ここは都内某所の喫茶店。
たまにはいとこ同士で集まってお茶でも、という譲治の提案で集まったものだ。
さっきまで楼座が一緒だったが、彼女も仕事の相手と挨拶の約束があるとかで、真里亞を預け退席していた。
なので、こっそり。真里亞は、今日、楼座にプレゼントする予定のものをみんなに見せてくれたのだ。
「今日、お夕飯を食べたらプレゼントするの。うー!」
「そりゃあ、喜ぶぜ…。……そういう気持ち、忘れて久しいなぁ。」
朱志香は、気恥ずかしそうに頭を掻きながら目を逸らす。……真里亞の素直さが、ちょっと眩しいのだ。
それは戦人も同じだった。真里亞の無垢な笑顔に、気まずそうに笑ってしまう。
……誰だって親には感謝してる。しかし、反抗期に一度うやむやになって。
……その後、そういう気持ちを持つのが、まるで恥ずかしいことのような気がして、そのままになってしまう。
「……私も、……何かお土産、買って帰ろうかな…。」
「譲治の兄貴もさっきから荷物を持ってるけど、ひょっとして親へのプレゼントだったり…?」
「うん。父さんには新しい財布をね。……縁起担ぎなのか、随分古いのを使い続けてるんだけど。最近は小銭入れが破けて、硬貨がよく落ちるみたいだから。そろそろ新しいのがあってもいいと思って。……あと、うちでは勤労感謝の日には、母さんにもプレゼントを贈るんだよ。今日、僕が行き掛けに受け取ってきたこれが、母さんへのプレゼントさ。」
「へぇ。そいつは何だい?」
「包丁だよ。母さんは、包丁にはこだわりのある人だからね。ブランド物でね。きっと気に入ってくれると思う。」
絵羽は、親族会議の席でこそ、かなりやり手のうるさ型にも見える。
しかし家庭では、料理とガーデニングを得意とする、良き母なのだ。
特に創作料理にはこだわりがあり、時に、ご近所の主婦を招いてのホームパーティで、自慢の新作を披露して喝采を受けたりもする。
そんな“台所の魔女”には、きっとぴったりの贈り物だろう。
「包丁ねぇ。プレゼントってくらいだから、上等そうだぜ。いくら位するんだ?」
「プ、プレゼントは値段じゃないよ。……これは20万ちょっとくらいのかな。」
「「に、にじゅうまんえん?!?!」」
「うー、それって高い?」
譲治は、社会勉強の一環として秀吉の会社で見習いをしている。お金の使い方も勉強するということで、給料と呼んでもおかしくないお金をもらっていた。
もちろん彼はそれをきっちり貯金していて、使うべき時には、それを惜しまず使うように教えられているのだ。これはまさに、その勉強の成果を両親に教えるものだった。
「ご、誤解しないでほしいのは、値段じゃないってことだよ。僕のプレゼントにも真里亞ちゃんのプレゼントにも、どちらにも勝るとも劣らないものが宿ってると思うよ。大切なのは気持ちなんだからね。」
「うー! 気持ちが大事―!」
「二人とも、お父さんに感謝する機会ってある? 案外、ないものだよ。勤労感謝の日って、僕は素敵なイベントだと思うけれどね。」
戦人と朱志香は顔を見合わせる。
戦人も、留弗夫とは色々あって、未だにぎくしゃくとした関係だが、……一応は、親としての敬意を感じてもいる。ただしそれは、口に出してまで伝えるものとは思っていない。
朱志香も同じ。両親には一定の感謝をしながらも、それは口に出してまでするものだとは思っていない。
そんな二人にとって、譲治の言葉は、少し沁みるものがあった…。
「プレゼントはね、誰でも使える、とっても簡単な魔法なの。」
「魔法?」
「うん。感謝の気持ちは、してる本人にはよく見えるのに、相手にはちっとも見えない、悲しいもの。それをね? 目に見える形に出来て、伝えることが出来る、とっても簡単で、そしてとっても素敵な魔法なの。」
「そうだね。贈る物の値段は関係ないんだよ。相手を思って、何を贈ったら喜ぶか考え、自分の足でそれを探し、包んで持ち帰り、感謝の言葉と共に手渡す、その過程。それがプレゼントという形になって結実して、相手に伝わる。……魔法と呼んでもいいものだと思うよ。」
「本当に魔法なんだよ…! この魔法を使うとね? ママが必ず元気になって、にこにこになるの! そして会社の仕事も早く終わるようになって、毎日お家に帰ってきて、一緒にお夕飯を食べてくれるようになるの! 本当なんだよ?! すごい効き目なの! うー!」
「確かにな。こんな真心のこもった、肩叩き券を贈られちまったら、……ジーンと来ちまうなぁ。」
「……よしッ。私も父さんのために何か買うぜ! 高感度アップを狙ってうまくいったら、……エヘヘ、ギター買ってもいい?って切り出せるかも。」
「下心ありありだな。まぁでも、それでも何も贈らないよりははるかにいいぜ。」
「そうだね。しない善より、する偽善だよ。ゴマ擦りだと思われてもいい。いや、そのつもりでもいいから、たまには何かご恩返しをしてみたら? ……きっと、何かが素敵になるきっかけになると思うよ。」
「家族が幸せになる魔法なの。うー!」
「何だったら、これからデパートにでも行ってみるかい?」
譲治がそう切り出すと、戦人と朱志香は顔を見合わせる。
……うん。たまにはそういうのもいいかもしれない。二人は笑顔で力強く頷くのだった。
駅ビルには様々なお店が入っていた。
お財布さえ許せば、どんな物でも手に入りそうだ。
「戦人は、留弗夫伯父さんに何を買うの?」
「……親父にねぇ。……無難にネクタイ辺りを、…とでも言いたいところだが…。親父のヤツ、ネクタイの好みにうるさくてなぁ。よくもらいもんのネクタイにガラが悪いとかダサイとか、ずいぶんグチを言ってるんだよなぁ。」
「ネクタイは好みがあるからねぇ。でも、プレゼントなら、どんな物でも嬉しいものだよ。」
「ファッション系より、日用品系がいいかなぁ。日用品なら、とりあえず使えれば文句は言わないだろうし。」
「あー、わかるわかる。私も、父さんのセンスはよくわからないから、実用性のあるものを探したいぜ。」
「うー。大切なのは気持ちー。センスはいいのー。」
いやいや、まったく真里亞の言う通り。
戦人と朱志香は、頭を掻きながら、各フロアの色々なお店を見て回るのだった。
「……私、この辺が気にいったかもしれないぜ。」
「おぉ、どてらとはまた渋い。でも、蔵臼伯父さんに似合うかー?」
「うちは母さんが厳しいからさ。自室以外は、たとえ屋敷の中でも公共の場と同じ身なりをって厳しいんだよ。……でもさ、それじゃー、肩が凝るってもんだぜ。父さんも時々、こっそりグチってるよ。母さんが来ると、すぐに黙っちゃうけど。」
「はははははは、蔵臼伯父さんも可愛い人だね。」
「うー! どてらはいいよ! ママも冬は、どてらにジャージで、おこたに入ってミカン食べながら紅白見るー。うー!」
「あ、あのお洒落な楼座叔母さんが…? そ、それは衝撃的な光景だな……。」
「僕はどてら、素敵だと思うよ。家では、のんびりリラックスしてほしいという気持ちは、家族にしか伝えられないからね。」
「確かにな。こういうのは、身内からもらってこそだぜ。」
「蔵臼伯父さんには、どんなのが似合うかなぁ。うーうー! 真里亞はこのピンクのカバさんのがいいー!」
「さ、さすがにそれは父さんは着れねぇぜ…。……父さんが着ても恥ずかしくない、もうちょっと貫禄のあるヤツはないかな。」
「……蔵臼伯父さんだと、どてらってよりは、ナイトガウンって感じだけどなー。」
「いやいや。肩肘を張らない家庭的なものが、かえって喜ばれるものだよ。それに、朱志香ちゃんが自分で決めたというのに意味がある。僕は素敵なチョイスだと思うよ。」
「それもそうだな。……朱志香だったら、ガウンよりどてらってイメージだぜ。」
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