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第七話『Requiem of the golden witch』本文抜粋 の変更点


ここは、第七話『Requiem of the golden witch』の本文抜粋ページです。
ゲーム中のテキストから、考察に関係しそうな部分を時系列順に抜粋しました。
不足がございましたら、ご自由に追加ください(ただし、出来るだけ本文以外の内容は追加しないで下さい)。
多少編集している部分がありますが、解釈に誤解を生じる編集はしていないつもりです。

「(金蔵は)絶対、お母様が亡くなった時より泣いているわ」(絵羽)

「これは次期当主に許されている、片翼の鷲の、銀の指輪です」(理御)

「肖像画の刑事は1986年の4月だ」(ウィル)

「(楼座がベアトリーチェに会ったのは)1967年のはずだ」(ウィル)

「10tの黄金を自在に出来るご夫人が、小娘程度のわけはない。ましてや、楼座が会った頃には、それからさらに10年以上が経過している」(絵羽)

「(ベアトリーチェは)当時の私よりは年上に見えたけれど、……それでも、……多分、成人したかどうかという歳に見えたわ」(楼座)

「……嘉音も呼んで、二人に話が聞きたい」(ウィル)
「申し訳ございません。受付を空けることは許されておりませんので、私には呼びに行くことが出来ません」(紗音)
「なら、誰か代わりを呼んできて受付を代わらせる。あんたと嘉音と俺。……理御を知らない三人で、一緒に、話がしたい」(ウィル)
「……受付は1人でいいと、仰せつかっております」(紗音)
「2人いちゃいけねぇとは言われてねぇはずだ」(ウィル)
「本日は人手が足りませんので、受付に2人も不要と仰せです」(紗音)
「誰がそう命じた。金蔵か。蔵臼か。それとも理御か。確認する」(ウィル)
「私の、命令権者です。私は命令に、逆らえまセン」(紗音)
「その命令権者は誰だ。そいつに交渉する」(ウィル)
「交渉など、デキマセン。私たチの、命令権者デス」(紗音)
「嘉音を呼べ。お前たちに確かめたいことがある」(ウィル)
「オ呼ビデキマセン。ソレデモナ オ、ソレヲゴ希望デスカ……?」(紗音)

「ウィラードさま。お館様は遺言を好まれません。生きているうちより、何事かを投げ出すお方ではございません」(源次)

源次は金蔵とベアトリーチェの間に子供はいたかと聞かれ、”そのような話は聞いたことがない”と、それを否定する返事をしている。
「聞いたことがない……か、ある意味で金蔵の腹心らしい、模範的な返答といえる。……何しろ、金蔵にとってその娘は、生まれ変わった”ベアトリーチェ”そのものなんだからな」(ウィル)

「記憶は蘇ったのだ。……あれは、紛れもなくベアトリーチェの生まれ変わり。……記憶は戻りつつあった。我が魔術の儀式によって、……僅かずつではあるが、記憶を取り戻しつつあった……」(金蔵)

「あんたは、愛人の娘を、……いや、ベアトリーチェを二度失った。その悲しみを表に出すことが出来ず胸の奥に押し込み、……それがやがて爛れて、狂気に変わった。それが晩年まで、異常なまでのオカルト趣味に駆り立てる」(ウィル)

「昔の、お祖父さまです。写真で見たことがあります」(理御)

「私が、ベアトリーチェに、………ベアトリーチェ・カスティリオーニに出会ったのは、終戦間際。彼女は、海の向こうからやって来た……」(金蔵)

気付けばもう、自らを若者と呼べば、若者たちに笑われそうになる歳になっていた。気が遠くなるような、長くて何も中身のない灰色の日々。それは20年にも及んだ。妻を愛していなかったし、かといって毛嫌いもしなかった。……どうでも良かったからだ。

「お祖父さまは土木・建築の知識がありましたので、海軍設営隊にて、施設造成などに従事されたと聞いています」(理御)

「(私は)英語と中国語を話せるであります。中尉殿」(金蔵)
「ならばイタリア語はどうか」(中尉)
「わかりません」(金蔵)

「イタリア社会共和国(サロ共和国)軍は開戦から1945年4月29日まで勇敢に戦ったのだ」(金蔵)

「他に英語のわかる人間はいますか?」(金蔵)
「いたけどみんな死んだわ。私だけよ」(ビーチェ)

30人ほどしかいない六軒島の番人たち

(イタリア人は)ベアトリーチェを含め、ほんの10人ほどしか、生き残れなかった

「東洋人がイタリアの本を?! へぇ、例えばどんな?」(ビーチェ)
「ニッコロ・マキャヴェッリ。ダンテ・アリギエーリも。だからあなたが永遠の淑女であることも存じていますよ」(金蔵)

「あなたは私をベアトリーチェと呼ぶのを改めるべきだわ。親しい人間は私のことを、ビーチェと呼んでいた。あなたもそうしてくれると嬉しいわ」(ビーチェ)
「わかりました。これからは親しみを込めて、ビーチェとお呼びを」(金蔵)

「九羽鳥庵と屋敷を結ぶ、2㎞にも及ぶ、地下道は、その基地の名残なのか」(ウィル)
「そうだ。鍾乳洞を改造した広大な地下壕で地下を網羅し、島内各地を要塞化する、……などという寝言の残骸だ。私はその地下道を生かし、島の両端に二つの屋敷を作らせたのだ」(金蔵)

何しろ彼らの母国(サロ共和国)はすでに連合国に降伏しているのだから。……細かい事情はわからない。確実にわかるのは、彼女らが六軒島にやって来てから2週間も足止めされ、未だに迎えが来ないことだけだ。

”戦闘員と思わしきはヤマモトを含めて数人程度。残りは軍属の作業員風情です。上辺の人数は日本人が上ですが、実質兵力ではこちら(イタリア人)が優位です”

「では、……まさか、あなた(南條)なのですか! お祖父さまがベアトリーチェを連れて行った、新島の医者というのは…」(理御)
「突然、海軍の兵隊さんが、外国人の女性を連れて現れたのです。驚きましたとも。……しかも、その上、軍機なので、秘密で治療しろというのです」(南條)
「それが、お祖父さまとの初対面だったのですか…?」(理御)
「…そうです。それが、金蔵さんとの初めての対面でした」(南條)
「その後、彼女(ビーチェ)は?」(ウィル)
「しばらくの療養の後、右代宮家の使いの方が来て、小田原に移すと仰いましてな。引き取られていきました」(南條)

彼女に金蔵とは血の繋がらない忘れ形見がいたことを南條が知るのは、その後しばらく経ってからのことである。
※PS3版
「それから数年の後に、子供を儲けられましてな」
※PC版

「その娘こそ……九羽鳥庵のベアトリーチェ、か」(ウィル)

だが南條がそれを知ったときには、ベアトリーチェは既にひどく身体を患い、今際の際にあったらしい。残された娘は金蔵に託され、そして……。
※PS3版
出産がうまく行かなかったそうで……
※PC版

「そして、その娘のために九羽鳥庵を作ったというわけか……」(ウィル)

「インゴッドには、片翼の鷲が刻印されていたと聞くが?」(ウィル)
「片翼の鷲、……というよりは、片翼に見えてしまう鷲、というべきでしょうな。ヨーロッパに多いでしょう。翼を広げた鷲を紋章にしたものは。……サロ共和国の国旗にも、鷲が、……いやいや、鷹でしたかな? が、刻まれています」(南條)
「刻印が薄かった、……あるいは粗雑だったということか」(ウィル)
「そうです。………戦時下の粗雑な刻印でした。本来は翼を広げた鷲の紋章が刻印されるべきだったのでしょう。それが、ちょうど斜めに断ち切ったように半分、薄れて消えていたのです」(南條)
「翼を広げた鷲が半分消えて、……それが、片翼の鷲に見えた?」(理御)
「金蔵は、自分の運命を大きく変えたベアトリーチェの黄金に片翼の鷲を見て。それを自分の紋章にすることを決めたに違いあるまい」(ウィル)
「……果たして正しく刻印されていたなら、それは共和国旗の鷹だったのか、……それともまさか、双頭の……」(南條)

「もっとも、金蔵さんはその刻印から黄金の出所を探られることを嫌いましてな。外部に持ち出す黄金には、わざわざ自分の片翼の鷲をデザインした、別の刻印を打ち直していたようですが」(南條)

「朱志香。もう少し妹らしい言葉遣いは出来ないのかい? ついでに言うと、もう少し年頃の女性らしい言葉遣いにも気を付けてみるべきだね」(理御)

「自分は精霊の子だと解釈したお前が、そこから次第にオカルトに傾倒していくことは容易に理解できる。………そこからだ。そんなお前が、ベアトリーチェとどこで出会い、どのように交流していったか」(ウィル)
「それは本当にある日、突然の、唐突なこと。………六軒島に住まう、ベアトリーチェという魔女に、私は会ってみたかったの、同じ魔女として」(真里亞)
「その頃にはもう、自分が魔女という自覚があったのか」(ウィル)
「あった。その頃には、聖書とオカルトでは、大人にも負けないくらいの知識があったから。だから私は、魔法は使えずとも、自分を魔女だと信じていた。……きひヒヒ、ちょっと滑稽だね。だから、私は魔女見習いなの」(真里亞)
「いつ、ベアトリーチェと出会った」(ウィル)
「よくは覚えていない。でも、その出会いはよく覚えている。それは、とてもとても唐突だった」(真里亞)
「そなたが、………右代宮真里亞か」(ベアト)
いつの間にか、……彼女はそこに座っていたのだ。私のことをそなたなどと呼ぶ人を、私は知らない。すぐに、彼女は、私の知らない誰かだと直感する……。
「……あなたは、だぁれ?」(真里亞)
「会いたいと言ったのはそなただ。妾の島に、魔女が訪ねてくるから出迎えてやったというのに、そなたは妾の名を問うというのか」(ベアト)

「……その時のベアトリーチェの印象は?」(ウィル)
「こういっては悪いけど。知識だけなら私が上だった」(真里亞)

「真里亞の体に乗り移ってもいいよって言ったけど、(ベアトリーチェは)島からは離れられないから出来ないって言ってた」(真里亞)

「1986年の六軒島で、ベアトリーチェに実際に会えたのは、郷田を除く使用人4人とお前と南條の、合計6人だけだったということか」(ウィル)

「そういえば、理御は中学も高校も生徒会長だったね。バドミントンの部長もやってたよね」(譲治)

「深窓の令嬢に憧れて、病弱な自分になれたらいいなと思って…、咳する真似ばっかしてたら、悪いクセになって」(朱志香)

真里亞は、人を視覚より、内面で判断する傾向が強い。同じ母親であっても、暴力的な時は黒い魔女と呼び、決して母親と同一視しなかった。即ち。視覚的には同一人物であっても、内面が異なれば、別の人間だと認識する傾向があるということだ。

「玄関ホールに掲げられている、ベアトリーチェの大きな肖像画は、私だってもちろん知っています。……しかし、碑文の話はわかりません」(理御)

「魔女に会いたいと願う真里亞ちゃんのために、誰かが魔女ごっこに付き合ったと…?」(理御)
「そうだ」(ウィル)
これが姉ベアトの誕生だ。千年を生き、六軒島に封じ込められて云々。それらは六軒島の悪霊伝説に、屋敷を深夜に徘徊する亡霊の話がミックスされている。古戸ヱリカの推理通り、2つの怪談が融合したものだ。誰かが2つを融合し、それを演じた。だからベアトリーチェは、屋敷の夜の主であると同時に、雲の糸を恐れるという、2つの怪談の特徴を兼ね備える。

「お前(理御)のいない世界では、次期当主を証明する銀の指輪さえ存在しない。……お前が指にしているその銀の指輪は、金蔵がお前に当主を継承したいという、他の世界にはない強い意思の証明だ」(ウィル)
「……確かに、その点は否定できません。当主様は、私を特に可愛がられておいでで、私が幼い頃から、成人したらすぐに当主を継承させる。その日に備え学業を怠るなと厳しく言われてきました」(理御)
「なぜ金蔵は、蔵臼よりお前に、強く当主を引き継がせたかったか、わかるか。お前が、ベアトリーチェと金蔵の、子供だからだ。金蔵は過ちを悔い、お前を今度こそ子孫として、右代宮家に正しい形で迎え入れようとしたんだ」(ウィル)

「夏妃は数学的確率で見て、257万8917分の257万8916の確率で、あんた(理御)の育児を放棄するわ」(ベルン)

「……右代宮戦人がマスターを務めた第6のゲームでは、性別を違えつつも確定しない二人組の悪魔が登場し、それを暗示した。……いや、厳密には、一番最初のゲームからだな。………お前(理御)の性別は、ゲームの外側の、隠れた謎の一つだ」(ウィル)

人は、誰かに理解されて初めて、救われる。死後も、何年経っても、……そして、一番わかって欲しかった男に、理解されることなく生を終えた哀れな魔女を、…………もう誰かが赦してもいい。

「時は西暦1976年4月。春を語るにはあまりに寒き頃のこと」(クレル)

「「「はい、奥様」」」
この4月より、新しく迎えられた使用人たちが、声を揃える。右代宮家で働き、お金を貯めて、よい会社に就職を斡旋してもらい、新しい幸せな人生を切り拓く。……それが福音の家のみんなが描く、もっとも現実的な夢だった。しかし、誰もが右代宮家の使用人になれるわけではない。品行方正で成績優秀な子しか、推薦はされない。先輩使用人ももちろん、福音の家出身の先輩だ。彼女は2年前にここへ来たらしい。だから、私以外の年上の新入りたちは、彼女と面識があるようだった。普通、使用人たちは、中卒か高卒を機に、使用人になる。でも私は、これから小学校だった。他の使用人たちはこれから毎日、通常のシフトに従い、使用人をすることになる。しかし私は、平日はお嬢様と一緒に新島の小学校に通い、空いた時間と、土日だけお勤めをするのだ。それはこれまでに例のない、異例中の異例だった。

「……あんたについては、学業最優先でと奥様からも源次さまからも言われているわ」(ルシファー使用人)

「こいつ、そんな勉強できるの? 天才児」(ルシファー使用人)
「全然知んないです」(レヴィアタン使用人)
「なんか病弱とかって、隔離されてたらしくて、家でも全然知りませんでしたし」(サタン使用人)

「大丈夫よ。私も一緒だから。二人でがんばろ。ね」(紗音)
紗音はそう言って、そっと微笑んでくれた…。
「……紗音は、福音の家からの唯一の友人だった。彼女はしっかり者で人気者。我とは大違い。我は呆れるくらいにのろまで要領が悪くて、誰も友人になどなってはくれなかった。そんな我が、福音の家でがんばってこられたのは、彼女がいつも励ましてくれたからだ。……なら、ここでも彼女と一緒に頑張れるだろう」(クレル)

「六軒島で泊まる時は、学校の支度をして、船着場でお嬢様をお迎えしなくちゃいけない」(フルフル)
週の半分は六軒島のお屋敷の、使用人控え室のベッドで休む。放課後にお嬢様と一緒に下校してお屋敷へ行き、そこで使用人としてのお勤めをして、そのまま泊まって翌朝、またお嬢様と一緒に登校するのだ。お勤めのない日は新島の寮に帰り、自分に与えられた部屋で自由に過ごすことが出来る。一応、大人の寮母がいて食事や消灯の時間を厳しく管理していたが、福音の家でそういう生活に離れているので、苦にはならなかった。部屋は、少し大きめのものでそれぞれが3人部屋になっていた。しかし、人数の関係か幸運なのか、我は3人部屋にはならなかった。

「寮でのお部屋も一緒だね」(紗音)
紗音との2人での生活なら、やっていけそうだった…。

「福音の家から毎年、何人かの使用人が入れ替わりでやって来ていました」(夏妃)
「あれに関しては、親父殿が先方と決めて勝手にやっていたことだからね。私たちには、何も口出しできなかったよ」(蔵臼)
「お父様のお決めになることは絶対ですから。……しかし、あの子についてだけは、腑に落ちませんでした」(夏妃)
「福音の家にも問い合わせたさ。そしたら源次さんに聞いてくれという」(蔵臼)
「お館様に聞いたら、ベアトリーチェ~と言う!」(ゼパル)
「源次の配慮、と見るべきだろうな」(ウィル)
「……そうでしょうね。……源次さんは、その世界に私がお祖父さまの血を引くと知っていて、特別な配慮をして、六軒島に呼び寄せたのでしょう」(理御)
「源次は恐らくこう考えた。……この世界の理御は、正しい血統を持つ右代宮家の人間だ。何とか六軒島で生活させてやりたかった。しかし、いきなり連れてきて、このこがそうですというわけにはいかなかったわけだ」(ウィル)

「サワチー、お疲れー」
「タダッチ、掃除遅いって絞られてた」
様々な事情で孤独に生きている少年少女たちにとって、自分の本当の名前や苗字とは、それでも手放したくない絆のようなもの。だから”音”の名前を嫌い、自分たち本来の名前のあだ名で呼び合うことが多かったです。
「ねぇ、ガラシさん~。何でヤスだけは3人部屋じゃないわけですかー」
ヤスというのはきっと私のこと。私は物心ついた時から親がいないので、まったく覚えがないが、……一応、安田という苗字が与えられていました。その安田で、私のあだ名はヤス、らしい。
「知らないわよ、部屋の割り振りは源次様が決めてんだもの。私だって納得いかないわよ」(ルシファー使用人)
「ですよねー! 普通、2ぃ2ぃにしますよねぇ?!」

私が俯いていると、……みんなには加わらずに、じっと見守ってくれている紗音の姿に気付きました。……紗音だけは、私の味方です。紗音は私と違い、本当によく仕事が出来ます。でも、決して私を甘やかしはしません。お手本を見せてはくれますけれど、決して私の仕事を奪ったりはしないのです。紗音は、立派なのです。私は、早く紗音のようになりたいのです。……誰の悪口も言わず、いわれず。誰とも仲良くできて、やさしくて。遊んでくれるのは、園長先生と、紗音だけでした。他のお友達とは遊ばせてもらえなくて、……ずっと自分だけ、隔離されたお部屋で過ごしてた。私が病弱で、いつも寝てばかりいたからだろうけど、………寂しかったな。

「……九羽鳥庵のベアトリーチェさんも、そしてその子供である赤ん坊も、戸籍のない、存在しないはずの人間でした」(南條)
「赤ん坊に戸籍を与える準備は進めておりましたが、その時点ではまだ、至っておりませんでした」(源次)
「でも、その赤ん坊は生きていたのね?」(フルフル)
「左様です。……無論、大怪我でしたとも。あれだけの怪我をして、生き永らえたのは奇跡でした」(南條)
「しかし源次は、赤ん坊が生き永らえたことを主人の金蔵には伝えなかった。源次は尊敬する主人のことを、ただ一つだけ信じていないことがあった。それは、ベアトリーチェの孫を、果たして本当に家族として迎え入れられるのか、である」(クレル)
「……悲劇を、……引き起こしてしまうのではないか。……私はそう、思いました」(源次)

「あぁ、金蔵の罪はベアトリーチェを喪った時より始まっているのだ。彼女と引き換えのように死んだベアトリーチェ。……その名で、そのまま彼女を呼んだ。金蔵はその瞬間から、彼女をベアトリーチェの生まれ変わりだと決めていたのである…」(クレル)
「源次は公私をしっかりと使い分けられる男よ。金蔵に忠誠を尽くす一方で、彼女に対して犯した過ちは、容易に許されるべきではないと思っていたわ」(ベルン)
「………かもな。源次は、理御の存在が容易に知れることがないよう、3つも年齢を詐称させてる」(ウィル)
「………ご名答。この世界の理御は生まれつき、歳を3つ、誤魔化されてる。……虚弱で小柄。発育不良だったしね。案外誤魔化せたみたいだわ」(ベルン)

「だからヤスに物を持たすなといつも言っている。そいつはそそっかしいから、いつも物をなくす」(ベルフェゴール使用人)

「ニンゲンの分際で、……我が姿を、捕らえたか……」(ガァプペアト)

「ほっほっほ、ベアトリーチェさまの悪戯では困りましたねぇ。でも、魔女が相手なら、おまじないで何とか出来るかもしれませんよ?」(熊沢)
熊沢さんは、あれはどこにあったっけ、と言いながら、厨房の棚を漁り始める。ようやく見つけてもって来てくれたそれは、何と、凧糸だった。それをピンと葉って見せ、50㎝くらいの長さに包丁で切ってくれた。
「これの端に鍵を括りつけ、反対の端は、ポケットのボタンのところでも、目立たないように括りつけておきましょう。……これは、蜘蛛の糸のおまじないなのですよ」(熊沢)
「蜘蛛の糸? 六軒島の悪霊が恐れたという?」(ヤス)
「そう、よく覚えていますね。この島の蜘蛛の糸には霊力が宿っていて、強い魔除けの力を持っていると言われていました。ほら,こうしてピンと張ると、蜘蛛の糸のようでしょう? ほっほっほ、これで蜘蛛の糸が苦手なベアトリーチェさまは、もう悪戯が出来ないというわけですよ」(熊沢)

「そうそう、玲音の機嫌が朝から悪い。目を合わせぬ方が良かろう」(ガァプベアト)

「だって、熊沢は、この子(ヤス)がベアトリーチェの子だって、知ってたんでしょ?」(フルフル)
「えぇ、知っていましたとも」(熊沢)

「交流を覚えた。親切にしてくれる熊沢との仲を深め、本の貸し借りと、その感想を語り合う関係を得た。意外かも知れぬが、あの熊沢、なかなかに推理小説を好んでおった」(ガァプベアト)

「それ、どんなお話?」(紗音)
「全員が招待状で招かれて、小さな島にやってくるところから始まるんだ」(ヤス)

紗音は着替え一式を持って、微笑ましそうに笑いながら部屋を出ていく。

「この魔女、せいぜい495年程度しか生きていまいぞ」(ガァプベアト)

月日を重ねぬうちに、私は学校の図書館の推理小説を全て読み尽くし、大人向けの推理小説にも手を出し始める。

その年、ごっそりと福音の家の使用人たちが辞めることとなった。我だけを残し、福音の家から来た仲間たちは一斉に、この島から卒業していった…。せっかく後輩が入ってきても、先輩たちが私のことを、ヤスはよく物をなくして云々と吹き込んだため、新しい仲間が来ても不愉快なままだったのだ。その、不愉快な先輩も同輩も後輩も、一度に辞めることとなった。
「じゃーね、ヤス。あんた、物を無くしたりするんじゃないわよ」(ルシファー使用人)
「……未だに謎よね。どうしてヤスはここに推薦されたの?」(レヴィアタン使用人)
「それを言ったら、未だに奥様がヤスの勤務を認めている方が意外だわ」(サタン使用人)
「逃げ出さない分だけ、根性があるってもんだ。しっかりな、ヤ・ス」(ベルフェゴール使用人)
「……みんなとは、ついにお友達になれなかったね」(紗音)

新しく来る使用人は、相変わらず私よりも年上だろうけれど。私が先輩として色々教えなきゃ。

「明日音と申します。よろしくお願い致します」(アスモデウス使用人)
「鐘音(べるね)と申しまーす。よろしくお願いしまーす」(ベルゼブブ使用人)

「まさか、紗音ちゃんも。それ信じてるわけじゃないですよねー?」(鐘音)

「……鍵束がなくなった時には、私が見ていない隙にヤスが、ひょいってどこかに隠したんだろうと思えた。……でも、鍵束から、ひとつだけ鍵が消えてて、それがありもしないところから出てくるなんて、考えられない」(鐘音)
「その鍵だけあんたが見てない隙に、引っこ抜いたんじゃないの…?」(明日音)
「そんなの出来る?! 実際に! 鍵束を丸ごとひょいっと隠すならともかく、鍵束から鍵をひとつ抜き取るって、考えれば考えるほどに簡単じゃないよ?! カチャカチャ、ガチャガチャ。すぐそこで私が背中を向けているのよ? そんなこと悠長にやってたら、いくら私が馬鹿でも気が付く!」(鐘音)
「その、紛失した鍵はどこから見つかったの?」(フルフル)
「私の、………ロッカーから。……いいよ、ヤスがこっそりやったって仮定してもいい。そう考えると気楽になれるもん。……でもね?! じゃあ、どうやってロッカーに入れたわけ?! ヤス、私たちとずっと一緒じゃん?! 私がないないって大騒ぎして、あちこち探し回ってロッカーの中で見つけるまで、ずっと一緒だったじゃん?!」(鐘音)

「だから私は、新しい後輩にはきちっと教えたよ! このお屋敷にはベアトリーチェさまという魔女がいる…! 馬鹿にするとマジで祟るからって…!!」(鐘音)

「この希薄な体では物足りぬ! 借りるぞ、そなたの体ッ!! 久々に本当の魔法を見せてやりたくなったぞ! わずかのひと時、再び、わが身を現世にッ!」(ガァプベアト)
「え? あ、………………ッ」(ヤス)
足元から霜柱が上るような悪寒が、感電するかのように全身に広がる。その瞬間から、……私の体の全てが、自分の意思では動かせなくなった。突然の停電に、何も出来ず呆然とするしかないように、私は、自分の体の支配を失うということを、呆然と受け容れるしかない……。私の体の全ての細胞が、泡立つようなぞくぞくとした感じ。……それは、肉体が私でない誰かのものに瞬時に作りかえられている感触。……私の肉体を依り代に、……魔女ベアトリーチェは、つかの間の復活を果たすのがわかる…。
「……ふむ、いいぞ。この外気の肌をくすぐる感覚、やはり肉体はいい!」(ガァプベアト)
な、……何をするつもりなの? 酷いことはやめて……。今や全ては正反対。私が口にしていた言葉は心の声。そして魔女の声こそが私の口から出る声…!

「………紗音。………起きてる…? ………………。……私、使用人やめる。もう決めたの、紗音。今日まで楽しかった。この部屋はあげるね。あなたひとりで使って。じゃあね。さようなら」(ヤス)
※この場面でヤスの声が初めて音声になる

「紗音のような素敵な使用人も悪くはない。……でも、魔女の楽しさを知ってしまったら、もうそれは退屈な憧れ。もう戻れない」(ヤス)
「紗音はどうするのか」(ガァプベアト)
「……紗音は紗音で、これからも尊敬される使用人でいてくれればいい。彼女は彼女のままで。ただ、これからは私と二人ではなく、彼女だけになるけれど。あなたが魔女で、私の友人という設定はそのままで。ベアトは私ということに世界を変更する。だからあなたは今から、ベアトリーチェじゃない魔女」(ヤス)

ベアトリーチェは、蜘蛛の糸が苦手。熊沢さんが言ってた、六軒島の悪霊の弱点。その悪霊の力を得て、魔女ベアトリーチェは復活しているから、弱点も引き継いでしまっているのだ。私は鏡が苦手。私が誰になろうとも、憧れようとも、……鏡に映るのは、いつも無残なくらいに情けなく現実的な、”ヤス”の顔。

そなたへの置き土産として、……そなたの世界より、妾そのものを消し去る。今より、その部屋は二人部屋ではない。そなただけの、一人部屋である。そなたは、優しく、誰にも愛され、頼りにされる使用人を目指し、これからもそなたの理想を体現していくが良い。もう、ヤスという、物をなくしてばかりの、愚かでドジな使用人は、存在しない。

私は、自分の抜け出た寝床に向かって手を伸ばしながら、……待って、と言っていたようだった。寝惚けておかしなことを口走って、その勢いで目が覚めてしまった経験は、ないことはないけれど。……寝床を抜け出して、こうして立ったまま目が覚めた経験なんて、今までに一度もない。ひょっとしてこれが、……噂に聞く、夢遊病なのかしら…。私、疲れてる……? ……寝なきゃ。寝直さなきゃ。私は、自分のベッドに、踵を返す。…………? 振り返ったところで、自分のベッドなどそこにはない。今、背を向けたベッドしか、この部屋にはないのだから。この部屋にいるのは私一人で、ベッドも私の背中に一つしかないなら……、……それはつまり、私のベッドということではないか。……なぜだか、釈然としない。ベッドの布団は、誰かが這い出たように、乱れている。誰かが這い出た…? この部屋は、私の一人部屋じゃないか。なら、それは私のベッドであり、這い出た跡とはつまり、私がさっきまでこの布団に寝ていたということではないのか…? ……でも、どうしてか、………このベッドが、……自分のベッドだと思えない。しかし、私、紗音は、他の子たちは相部屋なのに、私一人だけ一人部屋を与えられている。だからベッドも一つ。無論、それは私のベッドのはず。
「………私、疲れてる、……のかな」(紗音)
きっと、寝惚けてるだけ。明日も学校が早い。そして、学校が終わったら、お屋敷に行って、少しお仕事の手伝いをしてから、熊沢さんとまた、読んだばかりの推理小説を語り合いたい。

「はい、リストに沿ってしっかりとっ」(マモン使用人)

「ニンゲンの世界にだって、魔法に負けないくらい楽しいことがあります」(紗音)
「妾は全てを無限に手に入れられる、偉大なる黄金の魔女。その妾に、そなたは手に入れられぬものがあると、そう申すのか」(白ベアト)
「………はい」(紗音)
「知りたいっ。全てを手に入れたと信じる妾が、未だ手に入れておらぬものとは何なのか、教えよ…!」(白ベアト)
「多分、あなたはもう、それをご存知と思います。だから、私をここへ招いてくれたのではないですか…?」(紗音)

楼座が手を引く真里亞は、まだ幼稚園さえ早いほどに幼い。戦人と譲治は、もうじき中学生か、あるいは中学生になったかという元気盛り。
「夏はいとこたちで海ではしゃいだし、冬は冬で、色々ゲームをして遊んだっけ! 俺たちにとっては、親族会議ってのは楽しいもんだったぜ」(戦人)
「子供同士が群れて、馬鹿馬鹿しい遊びに熱中し、下らぬ話題で盛り上がる。……これが、そなたの見つけた、魔女の悦楽にも勝る、人間の悦楽だというのか」(白ベアト)
「………はい。あなたは、これが楽しくは見えませんか?」(紗音)
「退屈とは言わぬ。だが、この低俗なはしゃぎ合いが、全ての望みを叶えられる妾の理想郷よりも勝るとは、……解せぬ」(白ベアト)
「人と触れ合うことは、……とても楽しいことなんです。もちろん、あなたの世界も楽しいものだと思います。それでも、……私はこちらを選びます」(紗音)
「……教えよ。………そなたは、このような低俗なはしゃぎ合いの中に、何を見つけたというのか」(白ベアト)
「……………………………。知りたいですか…?」(紗音)
「知りたいっ」(白ベアト)
「恋です」(紗音)

二人(戦人と紗音)の交流は、同じ推理小説を読んでいたことを知った時から始まった。互いにとって、相手が自分と同じくらい深く、そしてたくさんの推理小説を読んでいたことは大いに意外で、相互の関心を引いた。それ以来、こうして。いとこたち4人でのはしゃぎ合いとは別に、二人きりの特別な時間を持ち合っている……。始めの内こそ、互いの知識の探り合いのような、ちょっと鍔迫り合いみたいな議論だった。しかし、それはやがて、互いの読書量や考察の深さを尊敬し合うものへと変わった。尊敬。信頼。そんな気持ちが互いの友情をさらに育み。もちろんそれは、友情と呼ぶべき範疇の中に収まってはいたわけだけど……。……互いが男女であることをほんのりと意識し合う、そんな、微笑ましいというか、若々しいというか、………くすぐったい関係だった。しかし二人はまだ、若いという言葉さえ、まだ過分ではないかと思うほどに、若い。恋など無論、まだ知らない。だから二人きりでいる時間だけに感じる、この胸の中の、甘いような酸っぱいような、くすぐったい感触が何なのか、理解は出来ない。でも、その胸の感触の向こうに、未知の感情があることに気付き、……その扉に、心臓を高鳴らせながら手を掛ける。……そんなくすぐったい年頃の、少年と少女たちだった。だから。いつしか、推理小説を巡る議論は、二人きりでの時間の口実となっていた…。

「ホワイダニットを扱う小説って、案外ないんだよな」(戦人)
「犯人特定後に動機を自白する作品は、結構あると思いますけど…?」(紗音)
「それを、犯人が自白する前に推理できるようになってなけりゃ駄目なんだ。動機がないと思われていた人物が、推理不能な動機により事件に及ぶってのは、俺は個人的にはアンフェアだと思ってる。ホワイダニットを大切にしない推理小説ってのは、何だか一味足りないように思う。……いや、つまらないって言ってんじゃない。……何て言うのか、……一番大切なものが足りない気がするんだ」(戦人)
「一番大切なものが、足りない……?」(紗音)
「心だよ、心が足りない。人の心ってのは、すごく重要だと思うんだ。人間が殺人を決意し、計画し準備し、実行に踏み切るためには、ものすごい大きな心の力が必要なはずなんだ。人は、心で動いているんだぜ」(戦人)
……即ち、人を殺せるのは心だけなんだ。殺したいほどの感情の高ぶりの挙句に、起こるのが殺人という悲劇なんだ。裏を返せば、殺人という、悲劇に至らしめた心を探ることこそ、事件に迫るってことじゃねぇのかな。心だけが、人を殺せる。そして、人が殺されたなら、心を探らなければならないんだと。彼はそう言った。

「紗音ちゃんは、いつまで使用人を続ける気なんだ」(戦人)
「……わかりません」(紗音)
「もし、いつか。辞める時が来たら。俺のところへ来いよ、そしたら。……今度はもう、時間も何も気にせずに済むもんな」(戦人)
この島での逢瀬は、一年の間に数えるほどしか許されず、……そしてその一度も、無常なほどわずかな時間でしかない。
「その日が来たら……、俺が白馬に跨って、迎えに来てやるぜ」(戦人)
「そ、……その日は、いつ来るんでしょう…」(紗音)
「紗音ちゃんさえ決心したなら、すぐにさ。俺はいつだっていいんだぜ。紗音ちゃんの人生さ。よく考えてから、決心するといい。……俺はその決心がいつであっても、それを尊重するぜ。その日まで、ずっと待ってるぜ」(戦人)
……一年後にも、あなたが、私を白馬に跨って迎えに来てくれる気持ちが、まだ揺らいでいなかったら。そして私も。一年後に、あなたを好きでいる気持ちが、揺らいでいなかったら。私は、あなたに全ての人生を捧げようと思います……。
「1年後に、この同じ場所で。……決心しようと、思います。で、……ですから…来年……」(紗音)
きっと、……迎えに来て下さいね…?
「おう。その日が来るのを待っているぜ」(戦人)
「はい。……私も、待っていますからね……。…絶対、……来て下さいね…」(紗音)
「あぁ」(戦人)
「……絶対ですよ。来年、来て下さいね」(紗音)
「あぁ。絶対、来るぜ。ここで会おうな」(戦人)

「お前の不幸は、多分。……碑文の謎を解いたことだろうな。事件毎に異なる共犯者を得るシステム。………導き出される推理は、犯人が莫大なカネを持っていたという可能性。そして、………全てを黄金郷に招き、……すべての恋を成就させる、もう一つのシステム。それこそが、第4のゲームの最後の謎の答えだ。……お前の最大の不幸は、碑文の謎を解き、………本当の意味で、黄金の魔女として復活し、その魔力を得てしまったことだ」(ウィル)

「1986年に戦人さんが帰ってくるという事実が変わらぬ限り。………何かの悲劇は起こったでしょう」(クレル)
「そうだな。……戦人が帰ってくるのが、一年早いか遅いかだったら。………事件は起こらなかったかもしれねェ。いや、何か小さな事件は起こったかもしれない。そしてそれはきっと、誰にも解くことの出来ぬ、謎の不可能事件となっただろう」(ウィル)

「戦人は1980年。母、明日夢の死と、父、留弗夫の早すぎる再婚に憤慨して、右代宮家を飛び出した。そして6年間、右代宮家を離れた」(ウィル)
そして祖父母がなくなり、留弗夫との和解もあって、1986年に右代宮家に再び戻る…。
「戦人が去ったから、事件が起こるんじゃない。………戦人が帰ってきたから、事件が起こるんだ」(ウィル)

「お前(留弗夫)の人生にも、そして家庭にも。私は何も文句を言うつもりはない。しかし、親父殿はカンカンだよ。勘当ならまだしも、子の方から愛想を尽かして籍を出て行くなど、聞いたこともない」(蔵臼)

戦人さんの手紙に、私(紗音)宛のものはなかったのだ…。
「右代宮家へ帰ってくるつもりは、ないのかしらね」(楼座)
「ないみたいだね。僕の方に、六軒島に行くことはもうないだろうって書いてあるよ」(譲治)

「戦人以外の者と、新しい宇宙を生み出すしかない。その誰かを、妾が与えよう。そなたの心を傷を埋め、癒してくれる存在だ。……そやつは、そなたを裏切らぬ。……そう、……そなたの新しい姉弟だ。…………そなたに弟を与えよう。福音の家で仲の良かった、実の弟のように可愛がってきた少年。……そういう存在を、そなたに与えよう」(白ベアト)
「では、……この胸の、恋の芽は、……どうするのですか。………私の、戦人さんへの気持ちは、変わりません。……枯れさせることなど、出来ません」(紗音)
「妾が、その芽を、根を、代わりに引き受けよう。………もし。戦人が帰ってくる日が訪れた時。まだ、この芽が枯れずにいて、そなたが望んだなら。この芽をそなたに返そう」(白ベアト)

弟の設定は、福音の家で仲の良かった、年下の男の子。名前は、……………福音の家のルールに従い、音の一字を与えよう。彼は、……寡黙で無口な男の子。右代宮家には、新しい使用人としてやって来た。そして、紗音とすぐに打ち解ける。紗音を姉と慕う義理堅い彼は、いつも紗音の味方になってくれる……。源次と同じように、金蔵に直接仕えることが許されている、特別な使用人ということにしよう。そしてベアトリーチェ。これからはあなたが、恋の芽を受け継ぐ。それはつまり、……戦人に恋焦がれ、彼を待つという役目が、あなたになったということ。あなたは、六軒島の夜に君臨する魔女であると同時に。右代宮戦人を、3年前のあの日から、ずっと待ち続けているのです。その姿も、設定の変更に伴い、新しいものに変えましょう…。彼は、どんな容姿の女性が好きか、話していたことがありましたね。…それは、外国のモデルのような、金髪で髪が長くて、スタイルの良い女性。…そう、そんな感じ。それが新しいベアトリーチェの姿(ブレザーベアト)です。

「わが友よ。………我が人生最後の魔法は、私に奇跡を見せてくれるだろうか……? ……いや、それで良いのだ。……誰にも解けぬ。だから、奇跡なのだ」(金蔵)
「お館様。……ひとつ、お教え下さい。もしも、でございます。…………奇跡が起こり。お館様の魔法が叶って。………ベアトリーチェさまがご復活を遂げられたなら。……如何なさいますか…?」(源次)
「…………我が友よ。そなたは、………やはり私を、咎めるのか。………………………………。……悔やんでおる。お前は信じぬだろうが、……私は老いてから、全てを後悔したのだ。もし。、奇跡が起こり、ベアトリーチェが蘇ってくれたなら。……無論、私との日々や過去のことなど、何もおぼえてなくてかまわん。……いいや、ベアトリーチェであったなら、それが誰でも構わぬ! ……私はただッ。…………謝りたいのだ…!」(金蔵)
「………それは、本心でございますか」(源次)
「そうだ、我が友よ。……悔いている。若き日の過ちを深く悔いているッ。……お前も老いたならわかるであろう。……若き日の過ちは、若き日には何の咎も感じはせぬ。しかしそれは深いトゲのように、次第に膿み、………私を苛むのだ。……この右代宮金蔵、今さら死に様などこだわりはせぬ! しかし、……このトゲだけは、………この後悔だけは、………清算したいのだ……。ベアトリーチェに全てを返す。そして罪の許しを請う…! それだけが、………それだけが、私の最後の願いなのだ……」(金蔵)

「……この碑文は、……………右代宮金蔵と呂ノ上源次の、二人にしかわからぬ、ある意味を持っていたのです。だから、これは運命なんかじゃない。必然だったのです。……私は、カボチャの馬車からガラスの靴まで、全てを準備されたシンデレラに過ぎない」(クレル)
「………なるほどな。……これは、金蔵と源次の、……茶番だったわけか」(ウィル)
「金蔵は、わかっていたのです。そして源次もまた、これがそのメッセージだと、理解したのです」(クレル)

「瞬間移動が得意なのはガァプだね!! 序列第33位の大悪魔だよ!…」(真里亞)
「よし、我が友よ、そなたはこれよりガァプだ。ガァプと名乗るが良い!」(ベアト)

「”お前は千兆分の一の確率でしか、祝福されない”か」(ベアト)
金蔵は、数十年の昔から、あの碑文の謎を用意していたことになる。いつの日にか、自分の後を継ぐに相応しい者を選ぶ儀式に使おうと、ずっと寝かし続けていた仕掛けに違いあるまい。

誰が来たのだろう。まさか、金蔵? このような場所(地下貴賓室)にいることが知られたら、酷く叱られるのでは……。(ベアト)

「お館様は、碑文を最初に解いたものに、黄金と家督の全てを譲り渡すと仰られた」(源次)

「はい。……若き日の、九羽鳥庵のお嬢様の面影が、よく残っております」(熊沢)

「……皆さんは、……知っていたんですか………私のことを………」(ベアト)
源次も熊沢も、南條までもが、無言で頷く。

「………ベアトリーチェ。…………いや、………理御。そなたに与えようと思っていた、名前だ……」(金蔵)
「……あなたの、本当の名前でございます」(源次)
金蔵は、枯れ木のような手を差し出す。その指には、右代宮家当主であることを示す、片翼の鷲の紋章が刻まれた指輪が輝いていた。それを引き抜くと、強く握り締めながら、私に向かって突き出す。……わたしはどうしていいかわからない。引き寄せられるように、おずおずと、……私は両手を、手の平を上にして差し出す。金蔵は、その手の上に、……拳をぐっと押し付けてから、ゆっくりと手を開き、指輪を預ける。

「右代宮金蔵ッ、我が生に一切の未練なしッ!! もはや何もなし! 心残りも遣り残しも何もなし!!」(金蔵)
金蔵は天を見上げながら、喝采する客席に向かって両手を上げて応えるかのような仕草をしながら、……大きな声で笑い続ける。………金蔵の笑い声がかすれ、……消えた時。彼は、操り人形の糸が切れたかのように、……カクンと膝をつき、…………ゆっくりと、………倒れた………。脈を取ったりしていた南條は、小さく首を横に振るとゆっくりと立ち上がる。
「…………大往生だ。……何の心残りもないだろう」(南條)

私の胸の痛みは、お金では癒せない。ただ、………彼が帰って来て欲しいだけ。

「この地下貴賓室へ至る鍵です。これを使えば、もう仕掛けを使う必要はありません」(源次)
「わ、私が当主なんてそんな……。それに、次期当主は蔵臼さまでは……」(ベアト)
「碑文の謎を解いた者が次期当主である。………これはお預かりしている遺言状にも明記してございます」(源次)
11月29日。私は魔女になりました。

「私は、……委ねる、決断をしました。先代当主より全てを受け継いだ儀式の時のように。……私もまた、奇跡という名の運命に身を委ねることを選びました」(クレル)
ルーレットに、身を委ねたと言った方が、正しいかもしれない。私は、私たちは、……自分たちの運命さえ決められなくて。全てを運命に託したのです。誰かが報われるかもしれない。あるいは全員が結ばれて、解放されるかもしれない。さもなくば誰かがこの愚行を、止めてくれるかもしれない。
「……どの運命をルーレットが指し示そうとも。私はそれに従うことにしました。私は、運命に、抗わない。……抗ったって、……いつだって運命は私に、非情だったんですから……」(クレル)
人の可能性は無限だと、ニンゲンたちは軽々しく口にする。しかし、無限の魔女は、……本当は有限であることを、知ってしまった。だから彼女は、その有限の運命の仲に、無限を見出そうとした。自分の運命を、神に委ねることで、無限を見出そうとした。しかしそれは、自分の運命の放棄ではない。なぜなら、運命のルーレットに、絶対の意思で臨んだから。誰も碑文の謎を解けないなら、誰も絶対に逃れられない、絶対の運命。それで島を閉ざした。自分ごと。1986年10月4日から5日は、絶対の意思で封じられ、………その狭い時間と島の中で選ばれるいずれかの運命に、……彼女は身を任す。

「(第1のゲームは)……始めから、危ういゲームだったな。………もしもあいつが、それでも死に顔を見たいといって踏み入っていたなら、どうしていた」(ウィル)
「それが、運命に身を委ねる、ということなのです」(クレル)

「………理御はどこか…! 肩を貸せ」(金蔵)
「当主様…! ただいま」(理御)

「今日は紗音もいるぜ。一緒に遊んだの、覚えてる?」(朱志香)
「あー…、紗音ちゃん! すっかり忘れてたぜ、懐かしいなぁ! 元気にしてるかい!」(戦人)

「……あの黄金さえ見つかりゃ、俺たちは全員ハッピー。誰も損がねぇんだがな」(留弗夫)

「ベアトのゲーム盤なんて、……とっくの昔に性悪魔女どもに乗っ取られてるわ。ベアトでさえ、あいつらのゲームの駒でしかない」(縁寿)

「まぁまぁ、しかし、手紙の言うことも一理あっちゅうもんや。……わしらは誰も彼もカネが欲しいんや。それも出来たら今すぐや。それに異論がある者はおらんやろ…?」(秀吉)

「黄金発見時の分配などについては、もう俺たちの中で決着がついている。そして、兄貴が次期当主であることを認める、ってのもな」(留弗夫)

「その、幸せな家庭とは、どんなものですか」(紗音)
「うん。それはとても幸せな家庭だよ。車と庭付きの家。そして飼い犬が一匹。庭には家庭菜園。子供たちが駆け回り、僕たちはバルコニーから微笑ましそうに見下ろすんだ。それが、僕たちの未来の日曜日の、当たり前の光景だよ」(譲治)

「この6年で、私たちはずいぶん変わったぜ。譲治兄さんも、昔は頼りない感じだったけど、今は違う」(朱志香)
「それは思ったぜ。譲治の兄貴、ずいぶんと貫禄が出てたもんなぁ」(戦人)

俺、あの頃、ひょっとしたら紗音ちゃんのこと、……好きだったかもなー。自意識過剰で、恋に恋してたお年頃だ。キザったらしい、浮ついた言葉で悪ふざけをしていた、甘酸っぱい記憶が蘇る。今さら気付くけど、……当時の俺と紗音ちゃんのあれってやっぱ、俺の初恋だったんだろうなー。ま、再会するまで、ケロリと忘れていた俺には、妬く資格なんてありゃしねぇな。

「親父殿は今も時折、台湾を懐かしんでビンロウを噛んでいるよ」(蔵臼)

「……あるいは、何かの比喩かもしれないわ。川が、水の流れる川とは限らないかも」(霧江)

「実はね。……今年、戦人くんが戻ってくると聞いて、……僕は最初、いやな気持ちだったんだよ。………6年前。……君と本当に仲が良かったのは、戦人くんだった。僕は君ともっと仲良くなりたいと思っていたけれど、まったく間に割り込むことなんて出来なかった。………僕は本当にみっともないね。今日、君に指輪を渡す時、断られるかもしれないと怯えた」(譲治)
「どうしてですか。……私が譲治さんの指輪を、どうして拒むと?」(紗音)
「戦人くんが、帰ってきたからさ。君は本当は、今でも戦人くんのことが好きで、……。……彼が帰ってきた今、僕は用済みなんじゃないかなって、………怯えたんだ」(譲治)
「……もし、私の気持ちが戦人さまに移るのではないかと怯えるなら。そんなことを絶対に思わせないくらいに、強く愛して下さい。……私が、あなた以外の男性のことを考える暇なんかないくらいに、愛して下さい。私だって怖いんです。私より魅力的な女性なんて、これからもいくらでも現れるでしょう。あるいは、至らぬ私に愛想を尽かすこともあるかもしれない。生涯、あなたの気持ちを私だけに繋ぎ止めていられるか、怖いんです。……私は、右代宮譲治さんという素敵な方を射止めました。そして、生涯、私を愛すると誓わせ、それを誓う指輪をこうして贈らせました。その指輪を、こうして薬指に通した上で、正直に告白します。私は確かに仰る通り。……6年前、戦人さまのことが好きでした。多分、譲治さんより、好きだったと思います。でも。それは6年前の話です。今の話では、ありません。戦人さまへのその気持ちは、この6年間で整理され、思い出と一緒に過去へ、決別したものです。今の私は、あなたを愛するためだけに存在します」(紗音)

「……つまり、あんたがベアトリーチェってわけか」(留弗夫)
「如何にも」(ベアト)
「ま、真里亞に手紙を渡したのはあなたなの…?!」(楼座)
「如何にも」(ベアト)
「……これは、親父殿の差し金なのかね?」(蔵臼)
「いいえ。これは私の、ゲームです」(ベアト)
「なら、そのゲームは私たちの勝ちだわ。こうして碑文の謎を解いて黄金を見つけたもの…!」(絵羽)
「あんたの挑戦に、うちらは勝ったんやで…! この黄金、わしらのモンっちゅうことで間違いないんやろな?!」(秀吉)

魔女はなおも歩み寄る。そして一同の人垣を割り、その向こうに置かれている、アンティーク時計のところへ行った。その時計は、なかなか立派な貫禄を持つ、大きなものだった。それを撫でながら、魔女は言った。
「……この時計の仕掛けも、皆さんにご説明しましょう。皆さんは黄金だけでなく。この島の全てを手に入れられたのですから。この島の地下には、戦時中の旧日本軍の地下基地跡が眠っています。そしてそこには、900tもの爆薬も眠っているのです。専門家の推定では、直径1㎞、深さ数十mの大穴が開くとか。この爆弾は、特別な仕掛けで爆発します。……私が今、操作した、これが起動のスイッチです」(ベアト)
魔女はアンティーク時計の上部のスイッチをいじる。
「この状態で24時を迎えると、爆発します」(ベアト)
「つまり、残り何時間で爆発する、というのではなく。24時ぴったりにしか爆発しない時限爆弾というわけね。……半世紀も前の爆弾でしょう? 本当に爆発するの?」(霧江)
「はい、もちろん。爆薬も信管も健在です。……試しましたから」(ベアト)
「そうか、やっとわかったよ。鎮守の社が跡形もなく消え去ったのは、そういうわけか…」(蔵臼)
この夏、鎮守の社が、岩礁ごと、跡形もなく消え去った。
「如何にも。………半世紀を経て今なお爆薬が健在であるか、あの社で実験させていただきました。結果は、皆さんもご承知の通りです。この地下貴賓室は、基地跡の地下通路に通じています。それをまっすぐ進めば、島の反対側にある隠し屋敷、九羽鳥庵に出ることが出来ます。距離は約2㎞。そこまで逃げられれば、爆発からも逃れられるでしょう」(ベアト)

「そうそう。忘れていました。………私に死に銭など必要ありませんので。これを皆さんにお渡しします」(ベアト)
「キャッシュカード?」
「黄金の一部を現金化していました。それが入っている口座です」(ベアト)
「いくら入っているんだね?」(蔵臼)
「詳しくは忘れました。でも、10億以上は入っています」(ベアトリーチェ)

アンティーク時計の上部には、左右にスライドできる金具のスイッチがついていた。スイッチは今、左に入っている。しかし、右にも左にも、特に何の印もなく、どちらがオンかオフか、わからない。
「………左が。今がオフです」(ベアト)
「……通帳と印鑑は? カードだけじゃ引き出せないわよ!」(絵羽)
「暗証番号で引き出せます。8桁です」(ベアト)
絵羽と霧江は、それぞれ筆記用具を取り出し、魔女の告げる8桁の数字を書き留める。

絵羽たちの言い分を聞く限り、年内に大きなお金を必要としていることはわかる。しかし、そのお金は10億のキャッシュカードで充分に支払える。この物語には、明らかに私たち(縁寿と理御)への悪意が満ちているのだ。

「…………絵羽姉さんの銃は、さっき夏妃さんを撃った時、弾が空になったでしょう…? 再装填してないんだから、どう引き金を引いても、その銃では人は殺せないわ。安心して」(霧江)
霧江はそう言うと、慣れた仕草でレバーハンドルを操作し、硝煙の香る薬莢を排出する…。
「……レバーアクションは慣れてないとリロード、難しいのよ。素人じゃなかなか出来ないわ」(霧江)
絵羽は拾った銃の再装填をしようと、うろ覚えの西部劇の真似事をしてレバーハンドルをいじってみるが、ガチっと何かがひっかかってしまって、開いたハンドルがびくともしなくなってしまう。霧江の銃は、慣れた手つきで再装填を終えている。その構えはまるで、子供が水鉄砲を構えるように無邪気で、そして遊び慣れたものだった。

発砲音の残響が収まると、……魔女は口からどろりと血を零し、そのままベッドに倒れた。

霧江は、自分が手にした銃が、銃身の長さから装弾数が5発だろうということはすぐに見抜いていた。………そう。霧江も留弗夫も、この銃には深く精通していた。父親の影響で、西部劇の銃に興味を持っていた留弗夫は、同型の散弾銃を所持していたのだ。そして霧江も同じ銃を扱う資格を持ち、二人で射撃を楽しむほどに、……この銃には精通していた…。この場にいる人数は、魔女を加えて8人。自分たち以外に6人いる。装弾数は5発。……1発、足りない。皆殺しには銃弾が足りなかったのだ。

「俺たち4人はみんな次期当主失格だとよ。……それで、俺たち親をすっ飛ばして、孫から次期当主を選ぶ、何て話になっちまったわけさ。トップバッターは譲治君と朱志香ちゃんだそうだ。朱志香ちゃんは屋敷の客間へ。譲治くんは礼拝堂の前まで行って欲しいそうだ。親父のやつめ、おかしなクイズみたいなものを作ったみたいだ。……当主の心得とは何ぞや、みたいな珍問らしいぜ」(留弗夫)

「戦人くんが大事なら、礼拝堂前で譲治くんをやっちゃ駄目よ? 死体を見つけられたら面倒でしょ」(霧江)

そして彼女(絵羽)は、静寂に包まれた黄金の部屋で目を覚ます。傍らには愛する夫の屍。蔵臼夫婦の屍に、楼座の屍。

縁寿を嘲笑うためだけに用意されたゲームは、なおも淡々と、……もはや予想を一切裏切らず、最悪の展開を重ねていく……。

……だって朱志香の顔面はもう、……鼻は折れ、目は潰れ、……歯も飛び、……可愛らしかった鼻筋はおろか、顔面であったと認めることさえ難しいくらいの、……血塗れの肉塊に、変わり果てていた……。霧江はようやく、銃床で朱志香の顔面を殴り続ける仕事を止める。
「……女の顔を殴ることに関しちゃ。叔母さん、慣れてるのよ」(霧江)

怒りの銃口が留弗夫の眉間に押し付けられる。落雷の光が辺りを真っ白に染め上げる。しかし、礼拝堂の壁は、真っ赤に染め上げられた。留弗夫の後頭部で、トマトを潰したような真っ赤な飛沫が、壁いっぱいに広がっていた……。留弗夫の無残な亡骸が、ひさしからぼたぼたと垂れる水滴に晒される。目は見開いたまま。後頭部には握り拳ほどの大きさに、ぐずぐずの挽き肉状の穴が開き、……その中身を外気に晒していた。

「ゲームマスターは、あなた(ベルン)ですか…!」(理御)
「……違うわよ」(ベルン)

「人でなしッ!! カネに目が眩んで人の命を奪うなんて…!!」(絵羽)
「あなただって、うまいことやったわ」(霧江)
「あれは事故よ!! 殺すつもりなんてなかった! あんたとは違うのッ!!」(絵羽)
観劇者たちだけが知っている。彼女(絵羽)が殺人鬼で有り得た世界を、知っている。

「殺したの?! みんな!! 真里亞ちゃんまで…?! ……私にはわからないわ。あなたも、自分のお腹を痛めて子を産んだ経験を持つ、母のはず。命の尊さを、知らないわけがない…! そのあなたがどうして、これだけのことが出来るの…!」(絵羽)
「子供なんて。勝手に出来るわ。子はかすがい、って言うわよね。子は、夫を繋ぎ止めておくための、かすがいなのよ。……留弗夫さんに、私のことを認めさせ、あの女から彼を取り戻すための、かすがいだった。私はもう。誰かの妻でもないし、母のつもりもない、ということよ。……私は私。霧江。留弗夫さんが死んだ今、右代宮でさえないわ。私は私の得になるように生きる」(霧江)
「そうね、留弗夫が死んで、あんたは妻ではなくなったかもしれない。でも、縁寿ちゃんがいるでしょう…!! あんたはまだ、母であり続けるはずよ…!」(絵羽)
「言ったでしょ、かすがい、って。留弗夫さんがいなくなった今、縁寿なんて私にとって、必要なものじゃないわ」(霧江)
「……あ、……あんた……、それが、母親が子に対して言うことなのっ?!」(絵羽)
「縁寿なんて、留弗夫さんを縛り付けるための、ただの鎖。……あるいは、家族ごっこをするための、子供の役という名の駒。……私にとって縁寿は、留弗夫さんの前で良き母を演じるときに必要な駒なだけよ」(霧江)
「……それでも人間なの……。……それでも縁寿ちゃんの母なの?!」(絵羽)
「くすくすくす。縁寿なんか知ったことじゃないわよ。あんな、クソガキ。可愛いと思ったことなんて、一度だってないわよ」(霧江)

「……理御。私はゲームマスターじゃないと、何度言えばわかるの?」(ベルン)
「ではクレルだというのですか?! そんなはずはない……!!」(理御)
「えぇ。そんなはずはもちろんないわ。だって。クレルは死んだもの」(ベルン)
「では、そこに立っている彼女は一体……」(理御)
「死体よ。剥製じゃないわ。だからもちろん、中身がある。……綺麗な姿で隠しているけれど内側には、どろどろのハラワタが詰まっている。………生きては、その足掻きを愛でる。死んでは、ワタを掻き出して愛でる。物語は、二度楽しめるのよ。……それが観劇の魔女というもの」(ベルン)
ゲームマスターは、ベルンカステルでもなければ、クレルでもない。ならば、誰……? 違う。ゲームマスターは、………いないのだ。

「これが、真実なのよ。1986年10月4日からの二日間の、猫箱の中身よ。この後、絵羽は九羽鳥庵で爆発を逃れて生き残るわ。……そして、猫箱の中身を欲するあなたに、最期の瞬間まで沈黙を貫くことで、この真実を、永遠に猫箱に閉ざした。絵羽一人が生還する。いくら警察が事故だと断定しても、世間は納得しようとしなかったわ。そして、亡き夫に代わり会社を切り盛りしようと張り切れば張り切るほどに敵を作り、彼女が壮大な陰謀の女王であるかのようなイメージを作り上げていった。……彼女は真実を語りたかったでしょうね。語ったとて証拠もなく、誰も信じない真実を。………絵羽の心は次第に壊れていった。あなたも絵羽を拒絶し、絵羽もあなたを拒絶するようになった。歪みきった最後の肉親同士の関係。愛息子の面影をあなたに重ねては苦悩し、ますます歪んで壊れて」(ベルン)

そんな中、おかしなメッセージボトルが漂着し、話題になっていた。六軒島で黄金を巡る、奇怪な連続殺人事件があったことを疑わせる怪文書。誰もが爆発事故を否定し、陰謀説に傾いた。そんな中、絵羽を犯人だと名指しする説まで生み出され、ますますに彼女を苛んだ。しかし、絵羽はそれでも、それらすらも、猫箱に利用した。そして、死ぬ最後の瞬間まで、彼女は守りきったのだ。その猫箱を開く、錠前を。だから猫箱の中の真実は、ニンゲンの誰にも至れない。カケラの海を渡る魔女が、錠前を開かない限り……。

「何? 赤き真実ではっきり宣言してあげた方がいいの? なら言ってあげるわ、赤き真実で。”これは全て真実」(ベルン)
「嫌ぁああああああああぁああああああぁああああああああああああああああぁああぁあああぁぁッ!!!」(縁寿)
縁寿の絶叫が、ベルンの赤き真実を塗り潰す。
「馬鹿な子。私にそれを言わせなければ、猫箱の中に封じ込めておけたのに。でも、あなたはそう言うわよねぇ? わかってたわ、もちろん。そして、その絶叫に歪む顔が見たかった」(ベルン)
頭を抱え、絶叫していた縁寿の体から、だらだらと垂れていた血は、とうとう、辺りに撒き散らすほどになる。そして、体がぐずぐずに、……溶けて、いや、崩れていく。そして彼女は座席に上にぐちゃぐちゃと積もる、……内蔵と屑肉の山に成り果ててしまう……。

「どうしてニンゲンは真実を自在に出来ないのかしら。馬鹿みたいにそれだけを追い求め、そして目の当たりにして堪えられず、自ら屑肉と成り果てる!! ねぇ、見えてる? クレル? ………あなたもこの真実を隠したかったのよね? あなたは戯れに、憧れる推理小説のラストのように、メッセージボトルに封じるつもりで、猫箱の物語をいくつも書いていた。それをあなたは、海に投じたわ。この真実を知ったら苦しむだろう者を救うためにね…!! あなたが猫箱で閉ざし、絵羽がそれを錠前で閉じた。くすくすくす!! その箱を、私が切り裂いてあげたわ…!! あんたが隠した全てが無駄ッ!! あんたが死んで隠した真実を、全て暴き出してやったわッ!!」(ベルン)

「……そうね、何もないわ。この世界ではね。でも、隣り合うカケラを覗くと、どうかしらね……?」(ベルン)
何もないはずの白い壁に、……じわり、じわりと、……血の飛沫が浮き出していく。そして、そこには、………死体が現れる。右代宮理御が、そこに死体を晒していた……。
「257万8917分の257万8916の確率で、あなたはクレルとしての世界に生き、逃れえぬ運命に翻弄され、気の毒な最期を遂げる。そして、257万8917分の1の確率で右代宮理御として生き。今夜、霧江に殺されるの。………つまりあなたの、いいえ、あなたたちの運命は、257万8917分の257万8917の確率で、………つまり如何なる奇跡も許さない絶対の運命で、逃れえぬ袋小路に、運命の牢獄に囚われているということなのよ!」(ベルン)

「イ、イタリア人の黄金を奪うだと? 卑怯者め、右代宮、貴様、それでも軍人かぁあああぁ?!」(???)
「………お、お父様……? わ、私はお父様のことを敬愛いたしております……。で、でも、……そのお父様の気持ちには、その……」(ベアト)
「どうして…!! どうしてあなたたちは私を助けたんですか?! どうして死なせてくれなかったんですか?! 私はあのときの大怪我で、……こんな体で生きさせられている!! こんな体で生きていたくなんてなかった!! こんな、恋をすることも出来ない体で……!! そんなの、そんなの、生きる価値がないんじゃないですか?! そんなのニンゲンじゃない…!! 家具じゃないですか!!」(???)

「……私、まだ全然ゲームマスターをやっていないのよ? ……私はベアトの葬儀をやっただけ。そしてハラワタを引き摺り出しただけ。…………まだ、何もやっちゃいない」(ベルン)

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