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雛見沢村民集会tetra頒布小冊子

追加TIPS

2011年6月19日に開催された、うみねこのなく頃に及びひぐらしのなく頃にオンリー「雛見沢村民集会tetra」で頒布された小冊子の抜粋です。
改行・誤字・頁など原文なるべくそのままにしました。
(今回の小冊子では「!」、「?」、それらの直後のスペース、地の文の文頭スペースがいずれも半角になっています。地の文の文頭スペースのみ、wikiのルール上全角スペースで記載しています。)


戯書No,×××
07th Expansion


「うーうー! 薔薇がいっぱい! 薔薇がいっぱい! うー!!」
「こら、真里亞ぁ、あんまりはしゃぐとまた転ぶぞ~!」
「ほら、朱志香ちゃん、真里亞ちゃん! 先にお祖父さまたちにご挨拶に行こう。」
「ほんま、この薔薇庭園はいつ見ても綺麗やなぁ…!」
「私は改装する前の方が好きだったわぁ、全く兄さんって本当にセンスがないんだからぁ……。」
「姉貴はいつもそれっばか言ってやがんなぁ…って、イテテ! 耳引っ張るんじゃねぇやい!!」
「あははは」「うふふふ」「きゃっきゃ」

親族会議にやって来た親族たちが、いつもと変わらない会話を弾ませながら薔薇庭園を歩く。
しかし今年は、去年までとは少しだけ違う。
……6年間、右代宮家を離れていた戦人が、帰ってきたことである。

「六軒島もずいぶん久しぶりだが、ホント相変わらず、屋敷も庭園もデケェよなぁ…!」
「ったく、6年もご無沙汰しやがって! ひょっこり帰ってきたと思ったら、こんなデケェ図体に
なりやがってよ。」
「はははは。朱志香ちゃんはこの6年間、戦人くんがいなくてつまらなそうだったからね。それにしても、
デケェ図体というのは同感。戦人くんは、本当に大きくなったね。」
「真里亞、ちっとも大きくならない。いつまで経っても、背が伸びない。うー。」
「大丈夫だぜ。真里亞もその内、いーっぱい伸びるからよぅ。それこそ、上にも前にもなー!
 いーっひっひっひ!」
「??? ママー。背って前にも伸びる?」
「こら、エロ戦人ッ!! 真里亞におかしな話をするんじゃねーぜ!!」
「うわったたたたた! 朱志香の暴力癖は相変わらずだなぁ! いっひひひひ!」

「ほら、行くぞガキ共、じゃれあうのは後でにしろぃ!」
「6年ぶりの再会だもの。興奮してるのよ、みんな。」
「ささ、皆様方。ゲストハウスへご案内いたします。どうぞこちらへ、どうぞどうぞ……。」
「ん…? どうしたよ、戦人ぁ? こっちだぜ?」

 郷田に促され、皆、ゲストハウスへ向かうのに。戦人だけは、悠然と、……あるいは呆然と、
薔薇庭園を眺めたまま、足を止め続けていた。


「どうしたんだい、戦人くん。」
「悪ぃ。先に行っててくれるか。」
「……うー? ……戦人、どうしたの…?」
「風に、当たっていたいんだ。……少しだけな。」
「何をキザなことを…! そんなの後でだって、いくらでも出来るぜー?」

 さっきまでは、みんなとあんなにふざけていたのに。
 戦人の表情は、いつの間にか憂いを感じさせるものになっていた。
 その瞳の中に、いとこたちの姿はない。
 薔薇の花びらが舞い散る薔薇庭園の光景か、……あるいは、その彼方の、灰色の空が
映っているだけだった。
「………そうかい。じゃあ、行こうか、みんな。」
 6年ぶりの六軒島、……いや、右代宮家なのだ。
 戦人にだって、心の整理にわずかの時間が必要に違いない。
 譲治はそう察し、朱志香と真里亞に、先に行っていようと促す。
 何しろ、6年も経ったのだ。
 自分たちは6年前に戻ったようにさっきまではしゃいでいたが、……それはあくまでも6年前の
ことであって。
 あれからの長い時間が、彼の身長や体格がそうであるように、……心さえも。大きく変えたに
違いないのだ。
 その表情には、6年前の、まだまだ子供だった頃の戦人とはまったく違う何かが浮かんでいる。
 朱志香もそう察する。
「わかった。……じゃあ私たちは先に行ってるぜ。後でな、戦人…!」
「………あぁ。後でな。」

 楼座に呼ばれた真里亞が賑やかに駆け出し、それを譲治と朱志香も追う。
 後には、静かに風が吹く薔薇庭園に、戦人の姿だけが残った。


「…………………………………。」

 親族たちの姿が全てゲストハウスに消えたのを見届けると、……戦人は少しだけ気を緩め
たかのように、両肩の力を抜き、はぁ、っと溜息をついた。

 ……戦人、戦人。……戦人くん、戦人くん、か。

 右代宮戦人。
俺の名前ということになる。何度もその名前を呼ばれた。
……それが俺の名なのだろうから、そうなるんだろうな。
 しかし、俺は、俺の知る右代宮戦人とは、……残念ながら、異なるのだ。

 その時、強い風が薔薇庭園を吹きぬけた。
 一斉に薔薇の花びらが舞い散り、舞い上がり、幻想的な風景を見せた。
 しかし、……その舞い上がった花びらたちが、まるで時間が凍りついたかのように、中空に動き
を止めてしまう。
 なのに、風だけは吹きぬけている、異世界。

「……戦人さま。お帰りなさいませ。」
「ロノウェか。……元気そうだな。どれくらいぶりなんだ? 俺たちは。」
「Land of the golden witchの後にTrinity of the golden witchでご一緒させ
て頂きました。……いえ、ベルンカステル卿のゲームが最後になりますから……。」
「……へっ。どれくらいぶりどころか、ついさっき会ったばかり、じゃねえか。」

 薔薇庭園の、色とりどりの薔薇が、色を変えていく……。
 それは全て、美しき黄金色。
 そこはもはや、右代宮家の薔薇庭園ではない。
 黄金の薔薇が咲き乱れる、……黄金郷だった。


「………俺がここにいる、ということは。……俺は俺の役割を果たしていい、……ってことだよな。」
「さて、………どうでございましょう。」
「駒には駒の役目がある。チェス盤に置かれたなら、駒に定められた役目に従い、………存分
に盤上で暴れる。つまりは、そういうことだろ…?」
「その通りですな。貴方様がこうして再び招かれた、ということは。そういう意味でございましょうな。」
「つまり。……俺は俺の、望む通りに、……好きにさせてもらっていいって。……そういうことだ
よな……?」
「その通りでございますとも。あなたの役割とは即ち、」
「俺の好きなように暴れまわる、ってことさ。」
「左様でございますとも、“戦人さま”。」
「へっ。……はっはははははははは。」

 戦人は笑う。
 小気味良さそうにではない。
 用件も知らされずに呼び出されて、……クソッタレな仕事を押し付けられた時に浮かべてし
まいそうになる、そんな乾いた笑いで。

「何をするも、……俺の自由なわけだ。」
「左様でございますとも。……何をなさるも、なさらないも。貴方様のご自由でございます。ただし、
一つだけ制限はございますが。」
「“退屈をさせるな”。」
「………ぷっくっく。その通りでございますとも。このロノウェも、此度のゲームがどのような悲喜
劇を見せてくれるのか、実に楽しみでございます。」
「俺、こーいうの、何て言うか知ってるぜ。……無茶振りって言うんだろ? ほら、テレビのバラエ
ティーとかでよくあるだろ。若手芸人を唐突に呼び出して、何の準備もさせないで、いきなり
面白ェことをしろ、みたいにさせるやつ。」
「ぷっくっくっく。これはこれは、実に愉快な例えでございますな…。」


「……いいぜ。今回も踊らされてやるよ。……わけのわかんねー連続殺人事件の指揮棒を
振るってやらぁ。どいつもこいつも、……俺がタクトを振り上げるのを、今か今かと楽しみにして、
お行儀よくシンとしてやがる。………はっははははははは…。」
「此度はどのような物語になさいますかな。準備はすでに整ってございます。……まずはこの
ロノウェ、何からお手伝いいたしましょう?」
「……………………………。」
「薔薇庭園にて犯罪の予告状を? それとも、惨劇の舞台の準備を? 皆様方が、その開演を
今か今かと待ち望んでおいでです。」
「今回は、………誰から。………いや。……どういう風に、殺してやろうかな………。」

 ……“右代宮戦人”。
 その姿は、誰が見てもそれに他ならないはず。
 なのに、浮かべる表情が、それと異なる。
 彼は本当に、……右代宮戦人なのか……。
 彼こそは、右代宮戦人と同じ姿をした駒でありながら、……まったく異なる“役目”を与えられた
駒……。

「いいや違うな。俺が見たいのは殺しじゃない。死体じゃない。……俺が本当に見たいものは、
……本当に一瞬なのさ。俺は、その一瞬が見たいんだ。わかるか、ロノウェ。」
「………ロウソクは、燃え尽きる最後の一瞬が、もっとも美しく瞬くと申しますな。」
「そうさ。………俺は、最高に美しくて、最高に最低な、……散り際が見たいんだ。」


 戦人はそう言って立ち上がり、暗い紫色にうねる空を見上げ両腕を広げて、叫ぶ


「身動きの出来ない譲治の兄貴の目の前で! 紗音ちゃんの首をゆっくりと絞めて殺したならッ、
譲治の兄貴は何色の涙を零してくれるのかな? 息子が犯人だと知って、そして頭を叩き割ら
れる瞬間、クソ親父は何色の血を零してくれるかな? あぁ、夏妃伯母さんの涙が見てみたい。
朱志香をぐちゃぐちゃのぎったぎたに殺してやって、その死体をさも、たった今みつけたッ、みたい
にしてやって。夏妃伯母さんがどんな顔して、どんな涙を流しながら駆け寄るのか。あの美人が、
どんなぐしゃぐしゃな顔で泣くのか、見てみたいッ。……あぁ、俺も一緒に泣いてやるだろうぜ。
そして泣きじゃくる伯母さんを胸に抱き締めて、俺も一緒に泣いてやるだろうぜ。……そして、…
……俺は最低最悪な下衆の顔で、泣き声とも笑い声ともつかない声で、ぅっく、ぇっく、……くく、くっ
くくくく、はっははははははは、はっははははっはっはっははははは!! 見てぇんだろ? お前らが見てぇ
のはそういう話なんだろ?! はははは、見せてやるよ。この俺が、“犯人たりえる右代宮戦人”がッ、
お前らに最高のエンターテイメントを見せてやるッ、はっはひゃっはっははぁあ!!」

 戦人が空へ、あるいは満座の観客席へそう吠える。
 それは雷鳴という大歓声をもって迎えられるのだった。

「素晴らしいですな。どの物語も実に見応えがありそうだッ。さぁ、戦人さま! 今宵のゲームは?!
今宵の惨劇は?! さぁ、まずは誰からお殺しになりますかな?!」
「まずはオーヴァーチュアから、と行きたいところだが。……俺はまだここに来たばかりでね。序
曲の前に、調律と行かせてもらおう。」
「どんな楽器の素晴らしき音色も、まずは調律から。では、そのチューニングに、まず何をなさいま
すかな…!」
「お前から、殺してみるか。」

「おや、これは想像しておりませんでした。」
「……このゲーム盤での俺が、どの程度に描かれているのか。そいつを手っ取り早く試させて
もらうぜ。……この“俺”は、……本当に“俺”として書き上げられているんだろうな…? 俺に満
足できる“俺”じゃないならば。………俺はこの舞台、何もせずに降りちまうからな………?」
 戦人はそう、天を見上げながら言う。
 その顔は、今度こそ本当に、笑っていた。


 ロノウェはティーセットを黄金の蝶の群に戻して片付けると。……襟元を少しはだけさせる。
「それでは戦人さま。……私めの体を使って、存分にお試しを。」
「お前のその指が。一本一本。………折れる度にどんな音を奏でてくれるのか。
……それを聞かせてくれよ。」

 戦人は怪しく笑う。
 その笑みにあるのは、猟奇的なものでも、悪魔的なものでもない。
 それは、無垢。
 まるで子供のように無垢な、……興味があるだけなのだ。

「………ぷっくくくくくく、くっはははははは、……あっははははははははははははは!!」
 ロノウェが笑う。
 自重気味に笑うことならばよくあるが、……このように、のけぞってまで大笑いするところを見る
のは、誰にとってもこれが初めてだろう。

「畏まりました、戦人さま。それでは、私めのこの指。戦人さまに捧げましょう。……ただしそれは、
貴方様が本当に、私めの指を味わうに相応しいお方だったならばの話…。」
「そうさ。俺もそれを確かめたい。………俺に、それが出来るようにちゃんと描かれているのか
どうか。それを俺は確かめたいッ。もしも確かめて俺が“俺”に描けていないようならば、俺を
砕けロノウェ、バラバラの粉々に!! そんな偽書は真っ平御免だぜッ! “俺”という駒を呼び出
すに充分な、最高に笑える偽書なのかどうか、お前が俺を試してくれ…!! さぁ、ロノウェ、試そう
ぜ…、試し合おうぜ…!! ははッ、あっはははははははははははははははは!!!」










「これで、お前の紅茶は、俺以外の誰にも、もう永遠に振舞えないな……。」


…パチ、……パチパチ。


「……誰かと思えば。ベアトじゃねぇか……。見てるなら見てると言ってくれりゃあいいのに。」
「ふっ、冗談を。……あのように楽しそうなそなたに声を掛けたならば、妾までそなたの楽器にさ
れてしまうわ。」
「………確かにな。……以前に聞いた、お前の音色も忘れられない。お前は最っ高のバイオ
リンだったよ。あの音色は、まさに天国から聞こえるかのようだった。……だが、もうしばらくはいい。
大事に大事にもったいぶる。……それが、長く長く、永遠に愛でる唯一のコツなんだからよ。」
「……それにしても、……恐ろしい。……いや、素晴らしい。あのロノウェを相手に、傷一つない
とはな。」
「なぁ、ベアト。…………俺を見ろ。」
「……見ている。」
「俺は、“俺”か…?」

 戦人はそこでようやく振り返る。
 その酷薄な笑みを浮かべる顔には、……一枚の花びらがついている。
 黄金の薔薇しか咲かないはずの、この黄金郷で、赤い、花びらが。


「……うむ。認めようぞ。……そなたは、“そなた”である。……再び会えて嬉しいぞ。……そして、
そなたは出会う度に、強く、美しく、………そして恐ろしくなる。」
「偽書が数を重ねる度に。……右代宮戦人が犯人であるとする物語が紡がれれば紡が
れるほどに。……“俺”という存在は力を増す。」
「恐ろしいことよ…。……そなたを望む観劇者たちは、一体、我等に何を望んでいるというのか…。」
「……決まっているだろうが、そんなことは。そしてそれは、俺とお前も同じだ。」
「そうであるな。それは妾もそなたも同じだ。」




「「我等を退屈させるなッ。
         くっひゃひゃっはっはははは
                      ははははは!!!」」




二人の笑いに大きな雷鳴が応え、観劇者たちの大歓声となる。
 ……どうやら彼は、そして彼らは、此度の偽書を気に入ったらしい。


 いつの間にか。
 薔薇庭園には雨が降り出していた。
 それは、いつもよりずっと早い。
 真里亞が薔薇がないと泣き出すよりも、ずっと早い。
 薔薇の花も、黄金ではない。
 いつの間にか、色とりどりの、右代宮家の薔薇庭園のものに戻っていた。
 雨の薔薇庭園で、戦人はひとり、天を見上げて、立ち尽くしている…。

「……戦人さまっ。このようなところにおられてはお風邪を引きます。」
「よぅ。嘉音くんか。…………久しぶりだな。」
「………………………。……そうですか。今宵の悪夢は、そういう趣向ですか。」
「そんな顔するなよ。お前だって、見たいだろ。……朱志香お嬢様が、身も心もぼろぼろになっ
て。自分はどうなってもいいから、嘉音くんを許して下さいって言わせて、……自らの指を切断す
るところを、また見たいだろ……?」
「………悪魔め…。……一体、誰が、お前なんかを望むというんだ……。」
「俺が犯人だと、期待して止まない大勢の観劇者たちと、彼らと俺に夢を与える、名も無き
戯曲家たちだぜ。」
「……………………………。」
「ほら、行こうぜ、嘉音くん。風邪を引くぜ。」
「…………はい。」
「あと、これな。」
「……お預かりします。」
「今夜。大広間の大時計が24時を告げたら。使用人室の扉にノックがあり、……廊下へ
出たらそれが置かれていたと言って、食堂の親族たちに届けろ。」
「……畏まりました……。」


 再び雷鳴。真っ暗な空は激しく瞬く。
 叩き付けるような雨の中、戦人は笑いながら再び両腕を広げて、空を見上げる。
だって、永遠の猫箱は彼の手の中。だって、繰り返される悪夢は彼の思い描くまま。
だってだって、未来人の空想は尽きることがない。飽きることがない。
だからこれは……。


「さぁ、今宵もゲームの始まりだ……!」















 だからこれは、“貴方”を苛む永遠の拷問。


うみねこのなく頃に
戯書No,×××
2011年6月19日(日)
雛見沢村民集会tetra